てくてく日本ワイン旅 塩尻ワイナリーフェスタ後編

おいしい日本ワインに目のないヴァインツリーマガジンの編集部員が、ワインにまつわる土地やお店へてくてくプチトラベル。今日はどこへ行くのかな?


前回に引き続き『塩尻ワイナリーフェスタ』のレポートをお送りする。


井筒ワイン

塩尻の老舗ワイナリー。五一わいんの正面にある。井筒ワインは二次大戦より少し前に開業したワイナリーで大戦中はナイヤガラとコンコードを用いて軍用ワインも作っていたという老舗。五一わいん同様、こちらも早い段階で、ナイヤガラとコンコードだけではなくワイン用のぶどうを栽培したいと考え、試行錯誤していた。井筒ワインの出した結論も「桔梗ヶ原に合うワイン用ぶどうはメルロー」であったという。

到着した時「あと5分くらいでガイド付きのワイナリー見学が始まるから、見ていかないか?」という旨のお誘いを受けた。良いタイミングだったので見学することにした。ガイドの方も慣れているようで非常に分かり易く丁寧な説明だった。ワイナリー見学自体は、何度もしているので、さほど驚くようなこともなかったのだが、井筒ワインの設備の第一印象は「いちいちデカい」ということだった。

二階に設けられた有料試飲コーナーで飲んだケルナーとソーヴィニヨン・ブランが特に美味しかった。井筒ワインは、地域の方向けにデイリーワインから本格ワインまで用意することを戦略としているとのこと。そして、確かにそれが実現されていたように思う。これは本当にスゴいことなのだ。単なる「幅広い品揃えの話」だと思うかも知れないが、それだけではない。「地元の人に愛されるリーズナブルなワイン」と「日頃からワインを飲み慣れていて舌の肥えている地元の人が特別な日に飲む、ちょっと贅沢なワイン」を、両立するということ。これには、日々の研究とチャレンジ、並々ならぬ努力、それを支える老舗の矜持と懐の深さ、そして惜しみない設備投資がなければ実現の難しいことのはずだ。やはり、老舗はダテではない。


林農園 五一わいん

今年100年目を迎える老舗ワイナリー。林農園では1951年に山形からメルローの枝を持ち帰り、自社畑に植えて栽培に成功している。1976年に、麻井宇介が塩尻の農家にメルローの栽培を啓蒙する際、林農園は近隣の農家へメルロー栽培の助言をしたという。林農園がなければ塩尻のメルロー作りは、もっと難航したことだろう。その意味で、今日の塩尻メルローの隆盛のもうひとりの立役者といえるのではないだろうか。また、Kidoワイナリーの城戸亜紀人氏が独立するまで勤めていたワイナリーでもある。

到着したのは昼時ということで、軽食を食べながらワインを楽しむことにした。

手前は五一ワインを使ったボロネーゼを挟んだパニーニ。しっかりワインとトマトの旨味のあるボロネーゼが柔らかなフォカッチャによく合う。パニーニによくあるぎゅっと抑えるスタイルよりは、軽く焼き目をつける程度でフォカッチャの食感を損なわない。

奥は五一ベーカリーという屋台で買ったホットドッグ。どうやらワイナリーフェスタの名物屋台のようだ。皮がバリバリで噛み締めるほどに味が出てくるパン、それに香ばしいソーセージを挟んだもの。少し酸を感じるフランスパン系の生地と、ほんのり甘やかなナイヤガラのワインとの相性が良い。メルローとも相性が良さそう。

 山賊焼きは塩尻のご当地グルメで、要するにニンニクをばっちり効かせたデカい鶏の唐揚げのこと。一部のコンビニのホットスナックコーナーでも置いてあるのでご存知の方も多いはず。この山賊焼きは思ったほどニンニクを効かせておらず「美味しい鶏の唐揚げ」としてまとまっていた。ナイヤガラのワインとの相性はまずまずといったところ。

 季節が良かったこともあり畑がとても綺麗だ。畑の中でピクニックしている方がいて、それも楽しそうだ。ワイナリーを巡るばかりではなく、お気に入りのワイナリーのお祭りにゆっくり入り浸る楽しみ方も素敵だと思った。

まとめ

塩尻ワイナリーフェスタでは、色々な人に話を聞いて塩尻の歴史と共にワイナリーを巡ることができた。日本のワインの歴史は欧州のそれと比べて、まだまだ浅いのは事実だろう。しかし、浅いからといって無い訳ではないし、軽んじられるものでもない。歴史の中には、個人の力だけではどうしようもない苦境が数多くあっただろうし、一方で、ひとりの人間の強い想いが切り開いた未来もあったはずだ。未だ総量が少ないだけで歴史は確かにある。歴史があるということはワイン造りにかける人の想いがあるのだ。わたしたちはワイナリーを巡ることで、そういったものの一端に触れることができる。ワインをより深く味わうための貴重な経験になるはずだ。そして、その経験が、塩尻という土地やワイナリーのファンになるきっかけになるかも知れない。わたしは、今回の旅を受けて、次に塩尻メルローや塩尻マスカットベーリーAを飲む時、あの街と歴史へ想いを馳せてみようと思った。これまで以上に楽しめると確信している。

日本のワイナリーは海外のそれと比べて日本語が通じる。ワイナリー訪問のハードルが極端に低いのだ。ぜひ、もっとワイナリーめぐりをしてワインを楽しんで欲しい。


山賊

https://tabelog.com/nagano/A2002/A200203/20005285/

本文中でも触れた山賊焼き発祥のお店です。駅から比較的近い居酒屋ですのでフラっと入れることでしょう。地元のワインを取り揃えているので、ワインと山賊焼きを楽しんでみてはいかがでしょうか?

(※写真はイメージです)

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