手仕事とワインで旅するニッポン vol.5 東京

各地のおいしいものやクラフトの楽しい話を聞くならこの方!

『山陰旅行 クラフト+食めぐり』などの著書を持つ人気ライター・江澤香織さんが、旅先で出会ったユニークなクラフトとその地にまつわるとっておきのワインをナビゲート。

さあ、新しい日本を発見する旅のはじまりです♪


東京都 江戸切子とブックロード

東京も実は、ものづくりの文化が息づく街。特に台東区、江東区、墨田区などの下町エリアは、伝統工芸を継承するベテランの職人さんもいれば、若い世代の作り手もたくさんいて、小さなアトリエが続々生まれています。道を歩いていると、窓の向こうで何やらトンカン作業している様子を見かけ、ちょっと覗いてみたら、思いがけず職人さんと会話が弾んだりして、散歩が楽しいのです。

東京生まれの伝統工芸品も多く、その代表的なものの一つが江戸切子。切子とは、金盤や砥石を用いて、ガラスの表面に様々な模様をカットする技法です。魚子(ななこ)、麻の葉、七宝、亀甲など代表的な文様が20種類くらいあり、それらを組み合わせて、うっとりするような繊細で美しいガラス工芸品ができあがります。同じ地域内で作られる手吹きのガラス、江戸硝子をベースに使うことも特徴的です。

江戸硝子を作る工房。ここが東京都内とは信じられない光景


江戸切子をはじめとする様々なガラス製品をプロデュース・販売している木本硝子の代表、木本誠一さんに、制作現場を案内していただいたことがありました。

まず訪ねたのは江戸硝子の工房。東京都内にこんなところがあったのか!と驚きました。職人さんたちが絶妙なチームワークでキビキビとガラスを吹き、次々と形になっていく様子は見ていて気持ち良く、飽きません。その次に訪ねたのは切子の模様を彫る工房。ベースの吹きガラスと、切子のガラスカットは別の場所で行う分業制が基本です。

吹きガラスは広い工房の中を職人さんたちがあちこち動き回り、躍動感に溢れていましたが、切子はこぢんまりとした工房で、まるで顕微鏡を覗く研究者のように緻密で繊細な作業。寡黙に集中してガラスと向き合っています。できあがった作品は、どれも息を呑むほど複雑で綿密な装飾が施され、まばゆい光を発し、凛とした姿で陳列されていました。

江戸切子は、ぐるぐる回る金盤の刃にガラスを当て、繊細な手加減で模様をカットします


複雑な切り込みが無数に入った江戸切子のグラス。見れば見るほど言葉にならない細やかさです


その後、木本硝子のショールームへ伺いました。お酒のグラスは100種類以上あるとのことで、こんなにたくさん作っているのは世界でうちだけでは? と木本さん。100円ショップなどの安価な製品が大量生産され、かつては販売に大変な苦労もされたそうですが、江戸の伝統と素晴らしい技術、そして職人魂には自信と誇りがありました。

国内外の様々なデザイナーとコラボレーションし、現代の生活スタイルに合わせた新しい提案に方向転換したことで、いまは世界中を飛び回っているそうです。江戸切子もスタイリッシュな黒のシリーズを展開したり、シンプルなワンポイントをグラスの底に忍ばせたり。用途にあったデザインで、現在の暮らしにフィットさせています。

「例えば美味しいものを食べた、という体験はしっかり記憶に残る。料理やお酒などを通して、ガラスの新しい提案を行い、日本文化を世界へ発信したいと思っています。ガラスという素材を生かして、より多くの人に楽しんでもらえたら嬉しいです」

グラスの中をのぞいてみると、底に切子がデザインされていました。おしゃれ!


使用済みワインボトルをアップサイクルする、という視点から生まれたfunew(フニュ)シリーズ


さて、木本硝子から徒歩10分前後の御徒町駅近くに、2017年より小さなワイナリー「BookRoad~葡蔵人~(ブックロード)」がオープンしていました。都会の中にあるワイナリーです。道を歩いていると、ふと窓ガラスの向こうに大きなタンクが見え、おや?と思わず足を止めてしまいます。

都市型ワイナリー「BookRoad~葡蔵人~」外観。窓の向こうが気になって、つい覗きたくなります


テーマは「ものづくりを楽しむ」だそうで、まさにこの地域にぴったり。ぶどうは山梨、長野などの契約農家からやってくる国産ぶどう100%。自分たちで収穫もするそうです。ラベルには、そのワインに合う料理や食材のイラストが描かれています。

3階には試飲コーナーがあり、仕事帰りの会社員がふらっと立ち寄ることもあるそう(不定休のため、できれば事前に要確認)。グラスとワイン、お散歩しながら2店を巡り、東京生まれのお土産セットを手に入れてはいかがでしょうか。

ワインはぶどうの品種ごとに展開。ラベルデザインが可愛くて目移りします


写真・文 江澤香織



木本硝子

https://kimotoglass.tokyo


BookRoad~葡蔵人~

http://bookroad.tokyo


江澤香織

フード、クラフト、トラベル等を中心に活動するライター&エディター。ワイン大好きで、ワイナリーも多く巡っている。著書「山陰旅行 クラフト+食めぐり」(マイナビ)、「青森・函館めぐり―クラフト・建築・おいしいもの」(ダイヤモンド社)、「酔い子の旅のしおり」(マイナビ)等。

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